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中華サンタ


「で、真っ赤な服と白いお髭、それと…プレゼントの袋を背負った人なんですよ」

「ハァー、そうナノカー…そんな気前のいい人が世の中にはいるのネー」

「実は、このお話には続きがあるんですよ。そのサンタさんっていうのは、実はお父さんとお母さんなんですよ」

「ヒャー、ホントカー?父様と母様カー」

「ふふっ、お父さんとお母さんがサンタなのは子供たちには秘密ですけどね。年に一度、好きなものがもらえる…子供たちにとってはそんな素敵な日なんですよ」


なんて会話を横で聞きながら、俺は地獄ラーメンを食べていた。

今日は日曜日、明日はクリスマス。
クリスマスには図書館でクリスマスイベントが開かれるそうで、たくさんの子供たちが来るそうだ。
どうやら雫ちゃんは子供たちを集めたクリスマスイベントの実行委員らしい。

そのお手伝いにメイファちゃんや花ちゃん、なつきちゃんなんかが加わっているらしい。
なつきちゃんなんか、どっちが子供だかわかんないけどなぁ…。

と、言うわけで、そのための話し合いが行われているのだった。


俺も妹たちにプレゼントを買ってやらなきゃなぁ…なんて考えていると「ダイスケクンっ!」と呼ぶ声が耳に入った。

「ダイスケクンも手伝うといいヨ!明日からの図書館の準備で忙しいからネ!」

とメイファちゃんに詰め寄られたけど今日は知り合いのバイトを変わってやらないとダメなんだ、と答える。
そう伝えるとちょっとしょんぼりした顔になったけどすぐにいつもの明るい顔に戻って

「それならしょうがないヨ。頑張るネー!」

「おぉ、メイファも頑張れよ」

地獄ラーメンを食べ終わった俺は、そのまま知り合いの家に向かった。

知り合いというのは、シュウイチさんって人のことだった。
シュウイチさんってのは俺や妹とよく遊んでくれたことのある近所のお兄さんだ。
今はコンピュータの仕事をしているんだけど、いつも忙しいらしくて家に居ない。
そんなシュウイチさんだけど最近ケーキ屋さんの子と仲がいいみたいで、休みの日は一緒に歩いているのをよく見たんだ。

そのケーキ屋さんの子に頼まれて、1日だけバイトをするつもりって聞いてたんだけど、どうしても外せない仕事が起こったらしい。
そこで、俺が変わってそのバイトをすることになったんだ。
ケーキ屋さんの外でケーキを販売するだけの簡単なバイトだし、ケーキも貰えるみたいだったからね。

「じゃ、ダイスケ。その子には言っておいたし、俺からもバイト代はずむし!ゴメンなっ!」

走って行ってしまった…すごく急いでるみたいだ。
よし、俺も行くか。

…数分後。

「キミがシュウイチくんの代わりか…うん、OKだね。背も丁度いいし。えっと、ダイスケくんだっけ?これ着てみて」

ケーキ屋に行くと長身の女性…名前はカヤさんというらしい…から大きな袋を渡された。なんだ?コレ、サンタの服じゃないか!

「よーし、似合う、似合う。よしよし」

サンタの服と白いヒゲ、おまけに看板を持たされた俺はそれから数時間、ケーキ屋の前で声を張り上げることになった。
コレはコレできついけど、普段の柔道の練習に比べたら全然楽だし、なによりケーキを2つも貰えると聞いたら俄然やる気が出てきた。
よーし!妹たちのケーキのため!兄ちゃんはがんばるからなっ!

「でね、最近全然。仕事ばっかりでさ。どう思うよ?ダイスケくん」

バイトが終わったのは午後20時をまわったぐらいだった。
寒い中、親子連れや女子高生、たくさんの人がケーキを買って行ってくれた。
その間中、声を張り上げてケーキを売ったためなのかはわからないけど、完売したみたいだった。

で、こうしてカヤさんと一緒に紅茶を飲みながら話を聞いてた。
ケーキ屋のカヤさんはシュウイチさんとだいぶ付き合いが長いらしいんだけど、ここ最近は全然会えないらしい。
そりゃそうだろう、シュウイチさん、ずっと家にいないもんなぁ…

話を聞いてみると、こういうことらしい。
以前から付き合っていたけど、最近になってすごく仕事が忙しいらしい。
もちろん、仕事が忙しいのは知ってるし、わかってるんだけど…どうしても心配らしい。
一人じゃね…心細いのよ。と、カヤさんは紅茶を飲みながら言う。

そんな話を聞きながらメイファちゃんのことを考える俺。
そうだよな、あれだけいつもいつも俺の世話焼いてくれたりしてくれるメイファちゃんが 突然居なくなったら俺も心細くなりそうだ。

でも、絶対にシュウイチさんにも理由があるはずだ。そうじゃないと…寂しすぎるな。


などとカヤさんの愚痴を聞いていると聞き覚えのある怒鳴り声がしてきた。

「ダイスケクンっ!メイファを差し置いて他の女の人と一緒にお茶を飲むなんてっ!ゆっ…許さない!」

あ…や、やばっ…メイファちゃん、拳法も得意だから…って!う、うわぁぁぁぁぁ…










「…丈夫?…大丈夫カ?ダイスケクン、死んじゃダメネ…」

聞き覚えのある声で目覚めると天井が見えて…あぁ、そういえばメイファちゃんのパンチをまともに受けたんだったっけ?

頭がズキズキするけど、とりあえず笑顔で答える。「大丈夫だよ。ごめんね、メイファちゃん」

「ど、どうしてダイスケクンが謝るカ?悪いのはメイファネ…早とちりしてゴメン…」


ふと見るとカヤさんがにこにこしながら立っていた。
どうやら、事情を説明してくれたらしい。
俺はメイファちゃんのパンチを受けて…それだけでは大丈夫なんだけど、そのまま床に頭をぶつけたらしかった。 それで頭が痛いのか…

「本当に大丈夫アルか?」

あぁ、大丈夫だよ…と言いながらもちょっと足がふらつく。…すっとメイファちゃんが腰に手を回して肩につかまらさせてくれた。

「大丈夫じゃないヨ…ダイスケクン、柔道習ってるんだからメイファぐらい投げ飛ばしてくれても…」

「それは、ダメだよ。俺、そんなのことのために柔道習ってるわけじゃないからね。それに、今回は俺が悪いんだし」


にこにこしながらも、どことなく寂しげなカヤさん。

「ダイスケくん、誤解は解けたみたいね。いーわねーメイファちゃん、彼氏が優しくて」

メイファちゃんが照れたように笑いかける。
俺も顔を見合わせて笑った。

「そうネ!とってもやさしい人ネ!恋人になったとき、メイファが早とちりして婚姻届を書いてってお願いしたときもこうやって笑って書いてくれたネ!」

ははっ、そんな事もあったなぁ。もう、4ヶ月にもなるんだな…知佳志が企画した「第一回 夏休み!!2週間で誰が彼女を作れるかデスマッチ」から。
俺とメイファちゃんはそれが元で付き合うようになったんだ。それからいつも一緒に遊んだり食事したりハオハオ手伝ったり。

「シュウイチさん、どう思ってるんだろう…」

ポツリとカヤさんが言った。メイファちゃんはハテナマークを浮かべて俺を見る。
手短にシュウイチさんのことを説明すると、ははぁ…といった表情でカヤさんの方を向いて

「カヤサン?メイファが思うに、きっとシュウイチさんも優しい人ヨ。一度きちんとお話をしたほうがイイと思うヨ」

?といった表情でメイファちゃんを見るカヤさん。

そうだよな、俺も思ってることを話してみた。
「そうですよ。自分ひとりで考え込まないで。一度シュウイチさんと話してみたらどうです?」

「メイファ、思うネ。今の自分の気持ち、ウソ偽りなく相手に伝えるコト…それが重要じゃないカ?」

にこっと笑ってメイファちゃんが俺を見る。…そうだよな。あの時、俺が告白しようとした時…先に口を開いたのはメイファちゃんだったよな…
と、何か思いついた顔をしてメイファちゃんが言った。

「…カヤサン、それじゃメイファがお手本を見せるヨ。今のメイファの気持ち…ダイスケクンに伝えるネ…」

照れたようなまま俺をまじまじと見つめるメイファちゃん…ちょ、ちょっと…照れるな…
と、突然目を閉じてそのまま俺の顔にメイファちゃんの顔が近づいてきて…

「こ、これがメイファの今の気持ちネ。は、恥ずかしいけど、いつもありがとう…ダイスケクン」

照れたままのメイファちゃん、にこにこと笑うカヤさん…そして、固まってしまった俺…3人そばにある大きなガラス窓の向こうには雪が降っていた。

次の日、俺はまたサンタの姿になっていた。
なぜかって?今日はクリスマス…そう、図書館でイベントがある日だ。

あの後、固まっている俺を見ていたメイファちゃんだったけど、側にあるサンタの服を見た瞬間

「とてもいいネ!それを着てダイスケくんも手伝うといいヨっ!」

と叫んだ。どうやら、明日の準備のために俺を探していてこんなことになったらしい。

事情を説明するとカヤさんは快くOKをくれたんだ。
どうやらメイファちゃんと初めてのクリスマスは、雫ちゃんのお願いで子供たちにプレゼントを配るようになるみたい。

…俺はもうプレゼント貰っちゃったけどね…

サンタ姿の俺と、白い髭をつけて真っ赤なチャイナドレスのメイファちゃん…メイファちゃん…そのチャイナドレスはいったい…?

「えっ、サンタは赤い服と白いヒゲネ。ダイスケクン、知らないカ?」

…多分、雫ちゃんの話の中で男性という部分だけがすっかり抜けていたらしい…

会場の準備は大人の人に任せて雫ちゃんとメイファちゃん、そして俺は図書館をぐるぐると回り始めた。


「こんにちわ、ダイスケくん、メイファちゃん」

カヤさんとシュウイチさんも来ていた。今日はシュウイチさん、仕事もないみたいだ。
小声で俺たちに話しかけるカヤさん。

「ありがとう。ダイスケくん、メイファちゃん。わたし、ちょっとがんばってみたよ、ほら」

カヤさんの指には指輪が光っていた。とても大きなプレゼント貰っちゃったの…わたし。と照れながら話すカヤさん。

…俺にはわけがわからなかったけど、指輪って高いものなんだよな?ソレにしては「とても大きな」っていうのはどういうことだ?
でも、メイファちゃんはすごくうれしそうにしているし雫ちゃんも笑ってる。多分、すごくいいことなんだろう。

「おにーちゃーん」という声に振り向くと妹たちも来ていた。

よーし、俺もみんなにプレゼントだ!

「じゃ!みんなっ!!メリークリスマスっ!」

俺が袋を放り投げると雪のようにキラキラとキャンディが舞った。





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