この道わが旅 夢幻工房入り口 -> 2次創作



でも…


最近街が騒がしい。多分それは新しいトレーナーがやってきたからだ。
毎年のことだけど、この時期になると新しいトレーナーがたくさん、ここハナダシティにやってくる。

「いくわよっ!マ〜ィ ステディ!」

モンスターボールから飛び出すスターミー
「スターミー!バブル光線っ!」

「あぁ!コラッタ!… 負けたぁ…くやしいなぁ… …カスミお姉ちゃん、次は勝ちますよっ!」

とってもポジティブなこの子とは、もう3回目かな?
そのたびにどんどん強くなっているのがわかる。次のバトルではどうなるかはわからないな。

…そう、数年前もそうだった。

あの頃から、私の心は純なまま。

ハナダジムは、代々水系ポケモンを使ってバトルをするジム。
だから、ピカチュウをつれたアイツが現れたときは正直参ったと思っちゃった。
こてんぱんにやられちゃった私は、とんでもない一言をいってしまったっけ…

「あんたなんか、ピカチュウ居なけりゃタダのお子ちゃまじゃないの!」

「なにぃ〜?!」

「だってそうじゃないの!他のポケモンはぜーんぜん育ってない。ピカチュウは10万ボルトだけ。バトルもへったくれもあったもんじゃないわっ」

こっちを睨んでくるアイツ。そりゃそうだ、どんな方法でも勝ちは勝ち。
曲がりなりにも私の弱点、雷系ポケモンでバトルしてきたんだもん…でも…

「初めに出してきたのイシツブテでしょ?水系ポケモンに岩系ポケモンぶつけるなんてお子ちゃまね〜」

「言ったなぁ!」

「だってそうじゃないの。ポケモンの相性も気にせずに、ただただ力いっぱい10万ボルトだけ。そんなのポケモンだってかわいそうよっ!
そんなお子ちゃまにブルーバッチをつける資格なんてないわっ。出直してきなさいよっ!」

「くぅぅぅ、絶対にお前をぎったんばったんにしてやるっ!」

「お前じゃないですー カスミですー 世界の美少女捕まえてお前なんて、水ぶっかけられて頭冷やしなさい!」

「くっそぉ〜!」

私もお子ちゃまだったけど、アイツも同じ。その夜はこっぴどくお姉ちゃんたちにしかられたっけ…
それから、数ヶ月後…

「あの…ジムリーダーカスミさんに、えっと…ブルーバッチを懸けたポケモンバトルを、も、申し込みますっ!」

突然現れたアイツはすっごく大人びていた。
緊張した面持ちでハナダジムに入ってきたアイツは、いきなり笑顔でこう切り出したんだ。

「オレ、あの後、ずっと考えてたんだ。ポケモンは強ければいいんだ、とかって昔は思ってて…
でもそれじゃ、ロケット団と同じだって気がついたんだ。それから、もっともっとポケモンたちと旅をしたいと思うようになっちゃって…
気がついたら、カントー地方をひとまわりしてたんだ。それで…ハナダジムを訪ねるの、遅れてすみませんでした!」

そう言って頭を下げるアイツに私のほうがドギマギしちゃったっけ。
当たり前のように負けちゃったけど…心は晴れやかだった。


その後、ポケモンリーグセキエイ大会で優勝したアイツ。あのときの優勝インタビューの言葉は耳に残ってる。

「あのっ、オレ、マサラタウンから旅をしてきたんだ…じゃなくって、きました。優勝できてうれしいです!
え、えっと、今まで旅をしてきて…こ、心に残ったこと?あ、あの…ハナダジムリーダーのカスミさんに大事なことを教わりました。
この、ピカチュウにだけ頼ってたオレに…えっと、たくさんのポケモンたちのすばらしさを教えてくれたのはカスミだからっ!」


セキエイ大会で優勝したアイツは新しいポケモンを求めてジョウト地方に旅立っていった。
今まで旅をするには遠すぎたジョウト地方へも、リニアが動くようになったから…

どんどん強く、優しくなるアイツ。そして、どんどん惹かれていく私。

「…待ってる…だから、絶対…カントーに帰ってきて…」

そうつぶやきながらリニアの窓越しに手を振った。




今年やってきたトレーナーたちとバトルを重ねる私。どうやら、すごいトレーナーが居るみたい。
ホウエンから来た私と同い年ぐらいの男の子で連戦連勝。しかも、強さだけじゃない、優しさも兼ね備えたトレーナー。


夜。ベッドの中で、ふと考える。

「アイツ…なわけないか…」

…あれから何年だろう…?ウワサのトレーナーってアイツなのかな?
そういえば、アイツ、ホウエンに旅するって言ってたなぁ…

ふらっとハナダシティに立ち寄ってくれたときのコトを思い出してしまった。

「オレ、もっといろんなポケモンと出会いたい。いろんなトレーナーとバトルしたい!だから、もう少し待っててくれないか?」

「ちょ、ちょっとぉ〜…それってあんまりじゃない?」

「ゴメン。でもさ、すっげぇんだぜ!ホウエン地方って、ポケモンの楽園みたいな感じでさ」

「もぉ〜、バカなんだからぁ…」

「ハハハッ。誰だよ、オレをこんなにしたのは。カスミだろ?」


アイツがハナダジムを訪ねてくれた、約束どおりカントーに帰ってきてくれた。
うれしさで半泣きの私にアイツはいきなりそう言ったのだ。

わかってるけど、わかってるけどさ…もうちょっと乙女心を理解してくれてもいいんじゃない?
3年間待ってたのよ?そりゃ、電話はしてくれたよね?手紙も送ってくれたよね?でもね、でもね…でも…
目の前に広がる大きな湖に石を投げる…広がる波紋、揺れる私の顔…
ホントの私の顔も、もうまともに見れないぐらいぐちゃぐちゃだろう。


「ハナダジムの娘になんて産まれるんじゃなかった…」

「…なーに言ってるんだよ。ハナダジムのカスミは世界の美少女、おてんば人魚。いつもポジティブシンキング…だろ?」


私の顔を見つめて、笑いかけるアイツ、触れる手、近づく唇…




「…バカ…」

ニョロモの形をした枕に顔をうずめたままつぶやく。
ちょっとだけウルウルなっちゃったじゃない、どーしてくれるのよ!

ソレもコレもウワサのトレーナーのせいだ、明日ぎったんぎったんにしてやるんだからぁ…

ドキドキした、眠れない夜。
もしも、アイツだったら…今度こそ離さないんだから…




ハナダジムに来たのは私よりも年下の可愛らしい男の子。
ちょっとだけ…ううん…だいぶ期待しちゃったけど…やっぱりアイツなわけないよね。うん。

「バッチを懸けてカスミさんにポケモンバトルを申し込みます!」

「ホウエン地方出身かぁ…それじゃぁ…ダブルバトルなんてどうかな?」

「はいっ!お願いしますっ!」

とってもいい返事だ。昔のアイツを思い出しちゃったなぁ…。

「いくわよっ! マーィ ステディ!」














結果は僅差で私の負け。
ヌオーとジュゴンはよくがんばってくれたけど、その子のマイナンとフライゴンのコンビネーションのほうが上手だったなぁ。

「負けちゃった…はい、ブルーバッチ。」

「ありがとうございました。やっぱり強いや…さすが、師匠の師匠だ。」

…へ?この子、なに言ってるの?師匠の師匠?んん??

「あ、えっと、ホウエン地方を旅してたときに、師匠と出会ったんです。マサラタウンから来たって言ってました。
師匠から、ポケモンと一緒に生きていくって言うことはどういうことかって教えてもらったんです。
それまで、バトルの強さしか頭になかった俺に、優しさと強さを持ったトレーナーになれって…」

…どこかで聞いたようなセリフだけど…マサラタウンのトレーナーが師匠??

「師匠、言ってました。ハナダジムにはポケモンことを教えてくれた人が居るからって。
あの師匠にポケモンを教えた人って誰なんだろう?って思って…」


…ポケモンのこと教えた?え、えっと…それって…もしかして…?
なんだか、急にウルウルきている私の顔…まばたきの回数が多くなって視界がぼやける。
たまらずにうつむいてしまった私を心配そうに見るその子…そりゃそうだろう、こんなかわいい女の子がいきなり泣きそうなんだから。

「あ、あの…こ、これ…」

うつむいた私の視界に何かを差し出す。それがモンスターボールだとわかるまでちょっとかかった。

「…っ…ぅ、んっ…ん、ご、ごめんね。あ、え、えっと、これって?」

「はい、ハナダジムのリーダー、カスミさんに渡してくれって…師匠にそういわれました。」

とたんに中から一匹のポケモンが現れる。…赤いハート型のポケモン…


「ラブカス:ミズタイプ ノ ランデブーポケモン。ハートガタノ カラダハ アイジョウノ シンボル。」


…ポケモン図鑑が解説してくれてる…ラブカス?水系ポケモンだけど、カントーでは聞いたことがないなぁ…

「ホウエン地方には、こんなお話があるんです。ラブカスを見た人々は永遠に幸せになれるって…」

聞いたことがあるような…ホウエン地方の最果て。とってもキレイな花の咲き乱れる島。
ポケモンリーグの会場がある島の近くに、ハートの形をした小さなポケモンがいる。

そのポケモンを一緒に見ることのできたカップルには永遠に変わらない愛が約束される…

そのラブカスがくるくると私の周ってる。

「…バカなんだから…でも……」

聞こえないようにそっとつぶやいた。





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