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ただいま進化中!!


「うー……もっと。うーん、もっともっと……」

ブツブツ言いながら着替える雪歩。
白いブラを下から持ち上げて、鏡を見つめてはため息をつく。

「あずささんはいいよなぁ。ばばーんって……どどーんって」


思い描くのはコンビを組むあずささん。
胸の大きなオトナの女性……おっとりとした魅力でファンが急増中。
ぺったんこで引っ込み思案な私と比べなくても、差は歴然。

せめて、胸がもっと大きくなったらばばーんと歌に踊りにがんばれるのに。
そんなことを考えながらぼんやりとブラを触っていると、大きな声が響いた。

「雪歩っ!雪歩っ!無事かっ?!」

そこにはプロデューサーさんの姿……と、心配そうなあずささんの顔が。

「って!?あ、ちょ、え、あ、し、失礼っ!!」

くるっと回れ右するプロデューサーさんに驚きつつも自分の姿。
つまりは、ブラとステージ衣装のスカートという、なんともえっちな姿に気づいて。


「へっ?!……あ、え、きゃっ、きゃぁぁぁぁぁーっ!!」

大きな叫び声を上げて胸を隠してうずくまってしまう私。
きゃーきゃー叫ぶと、困った顔をしたあずささんののんびりとした声が頭の上から聞こえる。

「あらあら、困りました〜……ですから私が見に行くと言いましたのに」

頬に指を当てて、うーん と考え込むような困り顔のあずささんだが、まったくあせっているように聞こえない。
背中を向けたままのプロデューサーが声をかける。

「あ、あのな。雪歩、すまんっ!
 あまりにも遅いもので様子を見に来たら、ぜんぜん応答がなかったから、つい……」

ヨロヨロと立ち上がって、私はプロデューサーの背中を涙目で睨む。

「ひ、ひどいですぅ!ノックぐらいして欲しいです!」

「しましたわ?こう。コン、コン、って」

ニコニコしながらあずささんがノックの真似をする。
あずささんは、いつでもマイペース。はぁ、なんか叫んで損しちゃった気までするなぁ。


「で、でも、着替えを覗くなんてプロデューサーさんひどいです!」

「だ、だから、事故だって……あぁぁぁ、雪歩っ、あずささんっ、ステージ!ステージの時間!」

腕時計を気にして慌てるプロデューサー。
時計を見れば、ステージ入り10分前……って、これってピンチだよね?

「ううっ、じ、時間が……も、もうダメですぅ……」

へたり込みそうな私を見つめるあずささん。と、ツンツンとプロデューサーの背中を突いている。

「プロデューサーさん、どうしましょう。雪歩ちゃんがパニックです〜」

「目をつぶってるから、見えてないぞ。見えてないからな!」
といいつつプロデューサーさんがこっちを向く。
ギュッと閉じた瞳で私を見つめているプロデューサーさん。


「雪歩、まだ大丈夫。まだ10分ある。すぐに着替えてステージに立とう」

「ダメですっ!もう、10分しかないです!あぁ、もう1分立ちましたよぉ、もう後9分ですぅ」

ますます慌てる私。
その様子にプロデューサーさんは、目を開いて私を見つめてくれる。
そのまま隣に立つあずささんに声をかける。

「あずささん、雪歩をきちんと連れて行きますから。あずささんは先にステージへ」

「はーい、わかりました〜」

トタトタと走るあずささん。しゃがみこむプロデューサーさん。
私の肩に手を置いて、まっすぐ見つめてくる。


な、なんかドキドキ。

「雪歩。ほら、俺の手……震えてるだろ?」

私の肌を伝わる肩に置かれたプロデューサーさんの手の小さな振動。
それは、プロデューサーさんの鼓動のようにも感じられた。

「ほ、本当です……プ、プロデューサーさんも怖いんですか?」

「怖いさ。君たちと同じように、ステージの前はいつも緊張するよ」


立ち上がってステージ衣装の上着を取ってくれる。手渡しながらプロデューサーさんは語る。

「でもね、雪歩やあずささんなら、二人なら、絶対ステキなステージを作ってくれるって思っているから」

そう言って、また私の目をまっすぐ見つめる。

「雪歩とあずささんを信じているから、震えても、怖くても、我慢するんだ」

ステージ衣装のパレオを受け取って身に着ける。
その間、プロデューサーさんの目をじっと見つめる。

まっすぐなプロデューサーさんの瞳。その瞳の奥にある期待感を感じ取って……
やっぱりとっても臆病な私が顔を覗かせる。

「でも、でも、私、ダメのダメのダメダメですぅ!穴掘って埋まりますぅ!」

そう言って、またパニックに陥る私をプロデューサーさんがギュッと抱きしめてくれる。
あまりのことに、驚いてしまう私。

「えっ?!プ、プロデューサーさん……?」

「雪歩、こうすると俺の話、ゆっくり聞けるだろ?
 ……そのまま聞いてくれ。あと5分。まだ5分あるから……」

有無を言わさず抱きしめたままのプロデューサーさんに、コクコクと頷くしかない私。
背中に回された腕が温かい。肩越しに見えるステージがキラキラ光ってる。

「雪歩はたしかにダメなところがある。でもな、それを含めて雪歩なんだ」

「や、やっぱり、ダメなんですね……はぅぅ……」

頭を撫でながらプロデューサーさんは言葉を続ける。

「でもな、そうやってダメだって言いながら、がんばってる雪歩をファンのみんなが待ってるんだ。
 完全無欠のヒロインなんて、普通は居ないぞ?がんばる雪歩を見て元気が出たってファンレター見たろ?」

歌番組のトークで、引っ込み思案だった自分のことを話した次の日。
私も恥ずかしがりで引っ込み思案だけどがんばってみます、ってファンレターをたくさん貰った。

「雪歩は努力してる、俺が保障する。雪歩は進化してる、俺が保障する」

プロデューサーさんの声が耳元にこだまする。


「雪歩は昨日の雪歩じゃない、毎日、がんばって成長してる」

プロデューサーさんの顔が目の前に来る。まっすぐな瞳。そこに映る私。

「だから、ステージに立とう。明日の雪歩になるために!」

ステージの光が私を呼んでいる様な気がした。
カクテルライトに照らされた真っ白いステージが私を呼んでいる。


「はいっ!プロデューサーさんっ、私!がんばりますぅ!!」


ダッシュで向かうステージの先に、私の目指す明日があるんだから。





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