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R+M


「えっと……今日の仕事はこれで、っと」

765プロに夕日が差し込む午後。
今日は珍しく朝の仕事しかなかったため、早くも雑務が終わってしまった。

「プロデューサー!今、時間大丈夫ですかっ?」

大きく背伸びした俺の後ろから元気な声が聞こえる。


「おっ、真。いいところに来た。ちょっと肩でも揉んでくれよ」

「ちぇーっ!ボクのほうが疲れてるんだけどなぁ……へへっ。でも、いいですよ。プロデューサー」

真の手が肩に触れて、指に力が入る。
さすがにスポーツが得意なだけあって、真に肩を揉んでもらうのは気持ちいい。

「おー、そこそこ。……あー、気持ちいい……で、真。なんだ?」

「プロデューサー、おじさんっぽいですよ?あ、そうそう。コレなんですけど……」

真が差し出した一冊の台本。
そこには、可愛らしい字で「ロミオとジュリエット」とある。

「学校の文化祭で劇をすることになっちゃったみたいで……へへっ、ボクなんの役だと思います?」

「ん?……そりゃもちろんロミオだろ?カッコイイ真にピッタリじゃないか」

「あー!ひっどーい、プロデューサーまで!!」


言うが早いか真は俺の首に腕を絡めて、そのままスリーパーホールドの真似事をしてくる。
ちょ、ちょっと待て!入ってる、入ってる、決まってる、決まってる!

「ギ、ギブギブ!ゲホッ、ッ……ふ、ふぅ……あんまり無茶するなよ。思いっきり決まってたぞ?」

「プロデューサーがそんなコト言うからですっ!」

プイッと怒ってしまった真に向き直ると、頭を下げる俺。
「ゴメンっ」と言うと、こちらをチラチラと見る真。それでもまだ頬は可愛らしく膨らんだままだが……

ハァッ……っとわざとらしく溜息をついて「いいですよ、もう」と微笑む真。
よかった。ちょっと機嫌を直してくれたみたいだ。

「で、この台本がどうかしたのか?」

「それですよ。ボク、仕事が忙しくてなかなかみんなとセリフ合わせできなくて
 ……だからプロデューサーにお願いして練習しようかな?って。へへっ、いいでしょ?」

「……うーん。いいけど俺がジュリエットやるのか?」


そう言って、ふと気がついた。
この方法だったら真も満足するんじゃないのかな?

「よし!でも真はこういうことに慣れてるだろうし、台本は通して読んだほうがいいだろ?
 俺がロミオをやるから、真がジュリエットをやってみろ」

「い、いいんですかっ?やったぁー!ジュリエットって、可憐な美少女ってカンジですよね。うっわー」

真は丸めた台本を胸の前に抱いてすごく喜んでいる。
ま、たまにはこうやって真とスキンシップ取るのもいいだろう。

真は座って台本を広げると俺を隣に座るように催促する。

「ところで、なんで女の子だらけなんだ?この劇」

「えーっ!だって男の子と、なんてできないですよ。
 女の子同士だったらいろいろきわどい演技もできるし。その、例えばキスの真似事とか」

「そんなもんなのか……ま、いいか。よし、通しで読んでみるか」


……そして、俺と真の二人きりの台本合わせが始まった。

現役アイドルが出るんだからということで特別に手渡されたその1冊は、
今までの先輩たちが書き込んだ動きや感情まで詳細に描かれた台本だった。

その台本に自分なりの考えを書き込んだりしながら、真と俺は読み進めていく。
そして、物語のラスト。

毒を飲んだとうそをついて眠るジュリエットの元に、何も知らないロミオが現れた場面。


「おお、ジュリエット……本当に死んでしまうなんて……」

俺は、そう言って横たわる真の上で大げさに天を仰いで泣くマネをする。
そして、ゆっくりと真の髪をなでると顔を近づける。

「…………」

真は目を閉じたまま、ジッとしている。
このまま近づくと……本当にキスしてしまいそうになる衝動を必死に抑えて、顔を上げる。
大きく溜息をついて、毒を飲んで倒れる演技をする俺。

そして、俺が倒れて少ししてから目を覚ます真。

「……ロミオ……私は生きているわ……なのに……なぜ…………あぁっ!ロミオっ!!」

大げさで真剣な真の演技に、俺も思わず息を呑む。
真の手が……俺の頬を撫でて、髪に指を通して、ゆっくりと胸を撫でる。

そんな詳細な演技指導は台本に無かった気がするが。
ともかく真の演技の邪魔をしちゃいけないと、ジッと動かずに真にされるがままになる俺。

しばらくそうしてから、ゆっくりと顔を近づける真。

「……ロミオ……」

呟くような熱っぽい声。

真の手が俺の頭を持ち上げて、そのまま抱きしめるように……って!
ちょっと待て、真!

「ちょっ!真、待て、待て!ストップ、ストップ!」

「えっ、あっ……は、はい……って、プロデューサー!止めないでくださいよ」

目の前では、俺を抱きかかえて頬を赤く染めた真が驚いている。
その隙に慌てて座りなおす俺。これ以上抱かれてたらおかしくなってしまう。

一息ついて真を見る。自分からあんな風にしたはずなのに、なぜか恥ずかしそうに笑っている。

「へへっ……迫真の演技だったでしょ?」

「真……ふぅ……もう、驚かすなよ」

ちょっともったいないと思いつつも、一線を越えなくて良かったと安堵する俺。


「肝心のロミオのセリフ合わせはできなかったけど……でも、逆にロミオの気持ちが分かった気がします。
 ボク、すっごく楽しかったですよ、プロデューサー!」

そう言って笑う真。
でも、その笑顔は少し不満そうだが……

「真、もしかして……俺が止めなかったら本当にキスしてた?」

「っ?!そ、そんなコトあるわけないですよっ!プ、プロデューサーも自信過剰ですよー」


そんな慌てなくてもいいじゃないか、と思うぐらい両手をブンブン振って必死に否定する真。
でも……なんとなくそんな真の仕草がうれしくて、頭を撫でながら声を掛ける。

「あはは、そうだよな。俺も自信過剰だよなぁ。よしっ、文化祭も仕事も頑張るぞ!」

「はいっ、プロデューサー!」

拳と拳を合わせて微笑む真の、まぶしい笑顔に俺は文化祭の成功を感じた。






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