この道わが旅 夢幻工房入り口 -> 2次創作



4つのプレゼント


── 誰からのプレゼントを ──

     

── 受け取りますか? ──

































































妄想癖



──ガラガラガラガラ──


「……邪魔するぞ」

「ぃえっ?」

いつものように窓が開き、オロチとダークナイトが入ってくる。
窓のサッシで足を怪我しないようにと机の上に置かれたクッションを使って当たり前のように机の上に腰掛けるオロチ。

「い、いつも突然入ってくるなよ、オロチ」

中にいたコウは、悪態をつきながらも手を差し伸べる。
また、いつものように手を払いのけて、座布団の上にちょこんと正座するオロチ。
払いのけられた手を見て、苦笑するコウ。

「しょっ、しょうがないだろ、コウとわたしは敵同士なんだからな」

「だからぁ…もう敵じゃないだろ」

そのまま苦笑いを浮かべつつ、目の前に座る。
オロチの肩に乗ったダークナイトもひらりと飛び降り、オロチのそばにひざまずく。


「……ぅん……」

敵じゃない──コウの言葉に小さくうなづくオロチ。
だが、ハッと気づいてブンブンと頭を振る。

「ちっ、違うからな。記憶を取り戻すまで、一時協力するだけだからな!」

隣ではダークナイトが小さくため息をつく。
──オロチ様…真っ赤な顔で否定しては、かえって認めているようなもの……


「はは、わかったよ。いつもの、いるだろ?」

そう言ってドアを開けてお茶を取りに行くコウ。
塩せんべいとほうじ茶はオロチのために必ず用意している…なぜかオロチはその組み合わせがお気に入りだった。

トントントンと階段を下りる音が聞こえる。
小さくなる音に不安になりながらも、コウの部屋を見回すオロチ。

ベッドの上にはぐちゃぐちゃに置かれた布団…思わずクスッと笑ってしまう。
乱暴に積み上げられた雑誌を眺めているうちに、ちょうどその間に隠されたように置かれてある本を見つける。

──あれってもしかして……

オロチの頭の中に浮かぶのは、コウがエッチな本をこそこそと隠す様子……
お、男の子だもんな、しょ、しょうがないよな、そういうことしたって…で、でも、もっと上手に隠すようにしたほうが……

そう思いつつも、無意識のうちに手が伸びる……


「あれっ?どうした?オロチ」


──ッ!?ビクッ!!


「と、突然帰ってくるな!ノ、ノックぐらいしろっ!」

ムキになって怒るオロチだが、コウにはその意味がわからない。
ノックしろといわれても、自分の部屋なんだし…それに、お菓子とお茶で両手はふさがってしまっている。

頭にハテナマークを浮かべながらも、オロチの前に塩せんべいと湯飲みを置く。


──コポコポコポコポコポポポポ……

湯気を立ててほうじ茶が注がれる。
その間、パリパリと塩せんべいをほおばるオロチ。

「ほぃ」

湯飲みを手渡されるオロチ。ズズッとお茶を飲んで、また塩せんべいをかじる。
ゆっくりとした時間が過ぎていく。

コウもお茶を飲みながらオロチを見る。
パリパリと塩せんべいを食べていくオロチは幸せそうだった。

目を細めてせんべいをかじり、お茶を飲む姿。
なんだかわからないけど、すごくかわいいな…と思って思わず声をかける。

「……オロチ、本当においしそうに食べるよな」

呟いて笑うコウ。

その言葉と顔に、恥ずかしがって「えへへ」と笑うオロチ。
にっこりと笑いながら無意識に親指についた塩を舐める。
と、自分の行為に恥ずかしさを覚えて赤くなってしまう…

しかし、その瞬間、またハッと気が付いて鋭い目つきで睨みながら、もっと頬を赤く染めてしゃべる。

「し、塩せんべいで幸せになるほど、わ、わたしは、ち、違うからな!」

隣ではダークナイトがガックリと肩を落としている。
ポンポンと肩を叩くGレッド……なんだかわからないが元気出せよ、という感じだろうか。

コウもその姿にニコニコしならが、ベッドに腰掛ける。

「あはは。違う違う。」

ベッドに座って、オロチの食べかけた塩せんべいを口に運ぶ。

──っ!?ぁ……

「あ、っと、ごめんよ。オロチの食べちゃったな」

照れくさそうに、いたずらっぽく笑いながら指を舐めるコウ。

──わ、わたっ…わたしが食べた、食べかけの、おせんべい……
────か、間接…間接キス…キ、キス……

頭の中で妄想が爆発して真っ赤になってうつむくオロチ。
ブツブツと何か呟きながら湯飲みを両手で握り締める。

その様子を怒ったのかと勘違いしたコウ

「あ、あれ?オ、オロチ…怒った?……ご、ゴメン。調子乗りすぎた?」

しょんぼりとしたコウの声にハッと顔を上げると、ブンブンと首を振る。
立ち上がって否定しようとするオロチ。

しかし、突然立ち上がったために足元がふらつき…

「う…うわっ!」

コウがあわてて抱きとめるが、勢いは止まらない。ベッドに倒れこむ二人。
両手で抱きとめられたまま…そのまま、無言で見つめ合う二人…


「オ、オロチ……?」

「…………」

無言で目を閉じてしまうオロチの姿に胸のドキドキが隠せないコウ

一方、オロチのほうも目を閉じてこれから起こる事…起こって欲しい事に考えをめぐらす。


──コウの心臓がドキドキしているのがわかる……
──目を閉じて、も、もしも、もしもだぞ…わたしが、こう、唇を上に向けて…上に向けて……向けて……

────薄目を開けると、そこにはコウの顔がいっぱいに広がっていて、コウも目を閉じて……
────そのまま、そのまま…そのまま……そのまま…………


「きゃーっ!」

またも妄想が爆発して、真っ赤になってコウを突き飛ばすオロチ。
ハァハァと息を荒げながらベッドの下にへたり込み、座るコウを見上げる。

「こ、このっ、わ、わたしは!わ、わたしはっ!そんな破廉恥ではないぞ!」

キッと睨み上げるが、コウの所在なさげに泳ぐ視線と赤く染まった頬に気づく。
な、なんで、そんな恥ずかしそうに…い、いや、先ほどの行為は、恥ずかしかったけど…

「オロチ様……恐れながら……足を…」

ダークナイトの声にハッと気が付いて、立てていた膝を下ろす。
コウの方から見ると……スカートの中が……い、いや、ズ、ズボンを履いているから大丈夫だから…いや、そんな…


「わ、わざとだな!わたしのスカートの中をそんなに覗きたいのかっ!」

「ぃええっ?!そ、そんなことない。さっきのもわざとじゃない!み、見たくない!見たくない!」


ブンブンと首を振って全力で否定するコウ。
その様子にますます真っ赤になって声を荒げるオロチ。

「っ!?見たくないってわたしに魅力がないってことなのかっ!かわいくないってことなのかっ!」

「そ、それも違うっ!かわいいってば、かわいいって」


──オロチ様……

その様子をため息混じりに見つめるダークナイト。
腕組みしたGレッドは「ウゥム…」と唸るばかりだ。

その間も激しい言い合いを続ける二人。
数分経ったところで、二人ともゼイゼイと息を切らしながらお互いを見つめ合う。
……先ほどまで言い合っていた一言一言が頭の中でリピートされる。


──かわいくないの?──かわいいよ!
──魅力的じゃないのか?──魅力的だよ!
────わたしは邪魔なの?──邪魔じゃないよ!
──覗きたいの?──覗きたいよ!


……そして、そのリピートが終わる頃には、真っ赤になってうつむく二人の姿があった。
二人とも頭の中にあるのは、とんでもないことを言い合ってしまったという後悔の念。


「オ、オロチ…ごめん。言い過ぎた……」

「ぅぅん…いい。わたしも…その、言い過ぎた…」


また、そのままうつむく二人…

と、突然立ち上がり窓のほうに向かって歩くコウ。
振り向いたオロチの目の前、いつの間にか窓の外には雪が降っている。

「雪…だ……」

外にちらつく雪は、道路を白く染めていく。
その様子に見入っていたコウだが、ふと、思い出したようにこう告げる。

「なぁ、今日はウチに泊まっていけよ。うさぎのとこよりも、マナのとこよりも…ウチに」

記憶をなくしているために自分の家の場所すらわからないオロチは、うさぎやマナの家を泊まり歩いている。
本当は女の子同士のほうがいいんだろうけど…

「女の子同士のほうが楽しいかもしれないけど。母さんにも話をしておくし…今日は…特別な日だし…」

振り向いて、ちょこんと座るオロチに、真っ赤になりながら話しかけるコウ。
でも、同じようにもじもじと恥ずかしそうに床に指を滑らせているオロチの姿を見て、苦笑しながらも手を差し伸べる。

──うん……

コウの手をとりながら立ち上がり、並んで窓の外を見下ろす二人。
雪振る今夜……

「メリークリスマス……オロチ」

静かに呟くコウの横顔をまともに見れないオロチは、代わりに手をギュッと握り返した。



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穏やかな日常



「獅子戸くん、今日は応援ありがとうっ!」

Tシャツはしっとりと汗で濡れ、ピンク色のユニフォームからは湯気が立ち上る。
さっきまでコートを縦横無尽に駆け回っていた凛の様子に、少しドキッとするコウ。

「なに言ってるんだよ。凛の応援ならいつでもOKだぜ?」

笑顔でそう答えると、あわててタオルを投げる。
片手でキャッチして顔の汗を拭う凛。

「ありがと。もー、ベタベタするからさ〜。んじゃ、ちょっと待ってね」

そのまま部員たちに囲まれてキャーキャー騒ぎながら控え室に移動する凛。
その様子を笑いながら見つめるコウ。


体育館のまぶしい照明が、熱戦が行なわれていたコートを照らす。

「凛、カッコよかったなぁ…」

そう呟きながら、試合を思い出す。

歓声の上がる中、パスを受け取った凛の周りには、背の高い少女たち。
手を広げ行く手をガードするが、その様子を「にっ」と笑って後ろに半歩…

そのままジャンプしてダイレクトにシュート……スリーポイントシュートが決まって、体育館はもっと大きな歓声に包まれる。
笑顔で部員に囲まれる凛の姿…

「やっぱ、かっこいいよなぁ……」

思い出したように腕組みして呟くコウ
まわりの友達も、帰り支度を整えて体育館を後にする。



「さっすが、あそこでスリーポイント決めるなんて!」

「ちょうど私たちディフェンスに止められてて、でもすごいわ…」

口々に凛を褒める部員たち。
照れながらもニコニコと笑って答える凛。

「そんなことないですよ。先輩たちのおかげです。」

バスタオルを用意しながらユニフォームを脱ぐ。
4年生たちが「お先に失礼します」と声を掛けて帰っていく側を通り抜けてシャワールームに向かう。


その様子を見ながら6年生たちは口々に凛のことを噂する。


「やっぱり凛ちゃんを部長に推薦してよかったわ…」

「そうよね。前はどうしていいかわからなくて、ギスギスした雰囲気だったし……」

凛が部長になってからというもの、先輩後輩の間柄に変化が生まれてきていた。
今までだったら、6年生が帰る前に4年生や5年生が帰ることなんてなかった…悪い意味で、体育会系の厳しい部だった。

そのため、練習以前の問題で脱落してしまう子も多く、なかなか大会でも勝てない…そんな日々が続いていた。
そこに現れたのが、凛。嫌味のないリーダーシップと実力を備えた彼女がいてくれたおかげで、みんなの気持ちはひとつにまとまっていった。

無理に先輩だと威張らず、かといって後輩たちの行動には厳しい目を向ける。
後輩たちも、きちんと上下関係を大事にしながら、いろいろな技術を吸収していく。
ギスギスした部活内に、笑い声と歓声が戻るのに時間はかからなかった。
それどころか一度辞めていった子も、もう一度戻ってくるようになって凛の人柄のよさが象徴される出来事になった。


「でも、ちょっとの間、学校こなかったよね。凛ちゃん…」

「うん、病気だったって聞いたけど……」

「ま、でもいいんじゃない?こうやって元気に戻ってきてくれて…私たち、念願の初優勝よっ!ねっ♪」

そうよね。と笑いあう6年生たち。
凛のおかげで優勝できたんだと、口々に話し合う彼女たちは本当にうれしそうだった。


……一方、シャワー室でおしゃべりをしながら汗を落とす凛たち。


「凛ちゃん。コウくんとどうやって仲良くなったの?」

「そうそう、ソレ。あたしもそれ聞きたかったんだぁ」


両側のシャワー室から質問攻めに会う凛。

──まさか、デスブレンに洗脳されてて、助けてもらったなんて正直に言うわけにもいかないし…

ちょっと困りながらも、適当に話を合わせてシャワーを浴びる凛。
キャーキャーと騒いでる同級生を見ながら思い出す。


あれは、ちょうど6年生の先輩がもう一度バスケをやりたいと部室に来たとき。
喜んで二人で話し合い、すっかり夜遅くなって家に帰る途中……たくさんの流星が空を走っていた。

あの流星群を見つめて…そして突如として放たれた紫の光。
光に締め付けられ、声を出すこともできずうずくまり、青い光が蛇のように巻きつくのを止めることもできなかった。


そして、気が付けばデスコマンダーオロチとしてデスブレインの前にひざまずいていた。
……デスブレンだったっけ?ま、いっか。あんな記憶……

それから数日…数週間…多分そんなに長い間だったわけじゃないけど、獅子戸くんたちと戦って…
気が付けば、青いバンダナがなくなってわたしは獅子戸くんの手を強く握っていたっけ。


それからだよね……獅子戸くんと仲良くなったのは。
助けてくれた…たくさん私のためにがんばってくれた獅子戸くん。


「おまたせー…ごめんね。遅くなっちゃって。」

手を振る凛と、周りではやし立てる先輩たちが目に入る。
キャーキャーと騒ぐ先輩や後輩たちを尻目に、自転車を押して並んで帰る二人。


「凛ちゃーん、また来年の大会もがんばろうねー」

「はーい、先輩たちもお気をつけてー」

大きな声で挨拶しあって、コウのそばに寄り添う凛。
恥ずかしそうにそっぽを向いてしまうコウの姿に、クスッと笑ってもっと寄り添う。

「あ、歩きにくいよ、凛」

「へへへ、そうだね」

でも、離れる気はないらしい…ポケットに手を入れたまま、凛のほうをまともに見れないコウ。
その姿に、凛は自分の手を無理やりポケットに入れて、つなぐ。

真っ赤になったコウのほっぺた。
その様子にクスクスと笑う凛。


「…ふふ……あ、雪……」

空を見げると、ちらちらと白いものが降ってきている。
つられて見上げたコウのおでこに雪が当たり、「冷てっ」と声を上げる。
クスクス笑いながらその様子を見ていた凛だが、ふいに立ち止まって繋いだ手を離し、口に両手を当てる

──クシュンッ

ひとつくしゃみをして、恥ずかしそうにコウのことを見つめる凛
その様子にコウのほうもドキドキしてしまう。

「……風邪引くなよ」

ぶっきらぼうに言ってみたものの、チラチラと凛のほうを見てしまう。
凛のほうも、一歩も動けずに、恥ずかしそうに立ち止まっている。


時間が止まったように見つめ合う二人……


先に動いたのはコウのほうだった。
いつものナップサックを降ろして、着ていたジャンパーを脱ぎ始める。
そして、凛のほうに差し出す。

「コレ着ろよ。凛が風邪引いたら、大変だからな」

わざとそっぽを向いて話すコウ。
その様子に、ちょっとあっけに取られながら両手で受け取る凛。


「ありがとう……あったかいね…獅子戸くんの匂いがする」

「えっ?!うそっ?汗かいてないはずなんだけど…」

フルフルと首を振って、袖の中でもぞもぞと手を動かす凛。
ジャンパーは大きすぎて、なかなか手が出てこないみたいだ。


「ううん、違うの。ちょっと言ってみただけ…」

結局、袖口から手が出ずにぶかぶかのジャンパーのまま、自分を肩を抱く凛。
そのまま、にっこりと笑ってこちらを見つめる。

「…オレとそんなに背が変わらないんだし、手、出るだろ?」

「こう着たいの。えへへ」

恥ずかしそうに笑うと、スポーツバッグを肩に掛け直す。
その様子を見ながら、手を差し出すコウ。

「しょうがないな、疲れてるだろ。持ってやるよ」

わざとらしく「しょうがないな」と言いながらスポーツバッグを強引に奪い取る。
その様子に胸のドキドキが止まらない凛。


──いいよね…今日はちょっとぐらい。

スポーツバッグを肩に掛けたコウの後ろから抱きつく凛


「お、おぃっ……は、恥ずかしいって」

「んーん、恥ずかしくないよ」


雪降る中、抱きしめたコウの身体は温かくて…なんだかちょっぴりうれしくて…涙が出ちゃいそうで…
後ろの凛の様子はわからないが、そっと呟くコウ。


「メリークリスマス…凛」

首の後ろから回された手を握りながらコウは呟いた。



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まっすぐ



「メリークリマース!」

──パァンッ!パァンッ!パァンッ!

クラッカーが盛大に鳴り響く。

「うひゃぁ、マナ!メリークリスマース」

コウも負けじとクラッカーを鳴らす。あっという間に二人ともリボンまみれになる。
「あはは」と笑いあって、それぞれにくっついたリボンを床に落として席に着く。


「じゃーん、今日はわたしがぜーんぶ作ったんだよー」

机の上には、鳥のから揚げにウインナー、ベーコンサラダと大きなオムレツ
ほかほかとおいしそうな湯気とにおいがコウを刺激する

「マナが?!すっげぇなぁ、おいしそう」

うずうずとフォークを持ちたくてそわそわするコウにクスリと笑うと「どうぞ」と声をかけるマナ。

「よぉーっし、いっただきまーす!」

パクパクと食べ始めるコウを楽しそうに見つめるマナ。
から揚げを口に運びながらその様子に気づいたコウが声をかける。

「マナ、おいしいぜ!マナも食べろよ」

「うんっ、そうするね」


フォークでから揚げを取ると一口…「うん、上出来」と微笑むと、そのフォークをコウの方に向ける。
なにをするのかと、びっくりするコウ…目の前でニコニコしたマナが、口を開く。

「はい、あーん…」

びっくりして固まってるコウの半開きの口に近づくから揚げ。
──はむっ…むぐむぐ……

口の中にから揚げが入ってしまう。そのまま、フォークごと口を動かしながら食べるコウ。
コウの口からフォークが取り出されると、そのままもう一個取られるから揚げ。

また、マナが一口。そのままコウの目の前に…

「マ、マナ。恥ずかしいよ」

「……ぅー、間接キスはイヤ?」


──か、間接キスって…

さっきの行為を思い出しても…マナのフォークを使って、マナが食べたから揚げをそのまま自分も食べて…
か、間接キスだよなぁ……やっぱり…

とたんに顔を真っ赤にして目を背けるコウ。
よほど恥ずかしいのか、無言でジュースを飲む。

笑顔で見つめるマナ。

「ふふ、コウくん……わたし、オムレツ欲しいなぁ」

オムレツを指差して猫なで声を出すマナ。

「あ、あぁ…い、いいよ。とってやるよ」

と、スプーンでオムレツを器用に切ってそのまま小皿に乗せようとすると、ハシッと腕をつかまれる。
びっくりするコウは、マナを見つめる…

「オ、オムレツとってやるから…」

「んーん、そのまま食べさせて」


目を閉じて、あーんと口を開くマナ。
真っ赤になったコウだが、意を決してオムレツの乗ったスプーンをマナの口に運ぶ。
ゆっくりとタマゴのいい匂いがするオムレツがマナの小さな唇に消えて…

──ん、むぐ…もぐもぐ……

口を動かすマナ。目を開くと咥えたスプーンを持ち直し、今度は自分でオムレツを取る。

「はい、お返し…あーんってして」

観念して、口を開くコウ。そのまま甘いにおいのオムレツが口の中いっぱいに広がる。
さっきまでマナが咥えていたスプーンが、今度は自分の口の中に…

料理の味もぜんぜんわからなくなるぐらい、ドキドキしてしまっている。
なんで、マナは平気なんだろう…わからなくなるコウ。

しばらくそうやって二人で食べさせあいっこしながらゆっくりと楽しむ。
恥ずかしがるコウをニコニコと見つめるマナ。
眠そうな幸せそうなとろんとした目で見つめられて、コウのドキドキが高まっていく。
机の上の料理もほとんどなくなって、ふと席を立つマナ。

しばらくして白い箱を持って帰ってくる。


「さぁ!本日のメインディッシュ〜」

楽しそうにマナがケーキを持ってくる。
思わず拍手で迎えるコウ。

真っ白いクリームのイチゴケーキが机の真ん中に置かれると、ロウソクに火がつけられ明かりが消される。


「わたしもコウくんも誕生日じゃないけど。それより、ロウソクの光だけっていうの綺麗だよね」

ニコニコと笑うマナの顔がロウソクの赤い炎に照らされる。

目を閉じて唇をそっと前に突き出すマナ。
その様子にびっくりして固まってしまうコウ。

時計の秒針の音だけがコチコチと響く…とても長いように感じた時間が過ぎて…目を開くマナ。

「……ぷぅーんっ……してくれると思ったのに…」

「な、なにをっ!?」

頬を膨らませて不満そうなマナをまともに見れないコウ。


明かりをつけると、ナイフを使って綺麗に切りはじめるマナ…その様子を見守るコウ。
さすがに家庭科が得意なマナ。スッとナイフを動かして、ケーキを切り分けていく。

「やっぱりマナうまいな。そういうの」

「やだぁ、そんなことないよ?」


ニコニコしながらマナが指についたクリームを舐める。
その様子にドキリとしながらも、コウはお皿を差し出す。

「一番大きいところな。あ、そのイチゴのトコ……そうそれ!」

「あはは、コウくんたら、コタローくんみたい」


そう言ってお皿に載ったケーキを差し出すマナ。
咥えたフォークをぷらぷらさせながらお皿を受け取ると、早速食べ始めるコウ。

「あはは。大丈夫だって、ケーキは逃げないよ」

その様子をおかしそうに見つめながら、自分のケーキを取り分けるマナ。
向かい合って座っていたはずなのに、なぜかマナはコウの横の椅子に座る。


「んっ?ここ座るの?」

「えへへ、この席で食べたいの」

マナは、ニコッと笑ってフォークを手に取りイチゴに口に運ぶ。
とがったイチゴがピンクの唇に消えていく様子を、思わずじっと見つめてしまうコウ。

小さな唇が開いて、イチゴを半分。
もう一度開いて、もう半分。

まるでわざと見せているかのように、ゆっくりとイチゴを口に運ぶマナ。
じっと見るのも恥ずかしくて、慌てて自分のケーキを平らげようとフォークを動かすコウだが…

ふと、じっと見つめるマナの視線に気が付く。


「…………クリーム…ほっぺに」

「へ?」

モグモグと口を動かしながら答えるコウ
その様子に、おかしそうに笑いながら近づくマナ……


──ちゅっ


ほっぺたに付いたクリームをキスで奪うマナ。
今起こった出来事に固まってしまうコウ。

「マ、マナ…?」

「えへへ…だってコウくんかわいいんだもん」

ぺろっと舌を出して笑うマナをまともに見れずに、真っ赤になってうつむくコウ。
ケーキを食べる手も止まってしまっている。


「マ、マナ……は、恥ずかしいよ、いきなりは」

やっと搾り出した声でそう告げると、またうつむいてしまうコウ。
クスクス笑うマナは、うつむいたコウを下から見上げて、一言。

「それじゃ、キスするよって言ったらいい?」

と、冗談めかして言う。
顔を上げて、目をまん丸に見開いて驚くコウ……マナは、向き合うとすぐに唇を近づける。


──んっ


今度は真正面から、唇に…正真正銘のキス。
そのまま首の後ろに手を回して、抱きしめながら首筋にキスしながら呟くマナ。

「メリークリスマス……コウ」

好きな人のために、尽くしてあげたいという気持ちが強すぎるマナの姿に、
ただただ真っ赤になって驚く以外に何もすることができないコウであった。



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世話焼き



「おぉぃ!」

うさぎが手を振る。
それに答えて、うさぎに向かって走るコウ。

冬休み前、うさぎのお願いで一緒にケーキを買いに行くことになっていた二人。
どちらともなく自然と手をつないで街に歩いていく。


街に来ると、クリスマス一色のキラキラした世界が広がっていた。
お店はピカピカと電飾が光り、サンタクロースの格好をした若いお兄さんが風船を配っている。

その間を抜けて目当てのケーキショップに向かう二人。

「美少女と一緒にケーキ買いに来れるなんて、このこのっ」

ニコニコと、コウをひじでつつくうさぎ。
しかし、コウは、不思議な顔をして「美少女って誰だ?」とつぶやく。

「きぃー!」

ほっぺたを膨らませて怒った顔になるうさぎ。
そのほっぺたを人差し指でつんつんとつついて笑うコウ。

「そう怒るなって。ほら、もうすぐケーキ屋だぞ」

「むぅ〜」

差し出された手を握ると、また二人で歩いていく。
ガラス張りのケーキショップに到着すると、曇ったガラスの向こうからジングルベルが聞こえてくる…

と、ガーッと自動ドアが音を立てて、中から縞模様のバンダナ少年が飛び出してくる

「うわっ!」「きゃっ!」

驚いて飛びのくと「ごめんなさいっ!」とペコンと頭を下げる少年

「……コタロー?!」「コウにいちゃん!」

走し去ろうとしていたのは、大きなケーキを抱えてニコニコとしたコタローだった。
家族と一緒に食べるケーキを待ちきれなくて急いで買いに来たに違いない。
普段ならコタローのお姉ちゃんが一緒にいるはずだけど、今日はいないようだ…初めてのお使い…ってところかな?

そう考えながらコウはコタローの頭を撫でる。

「コタロー、走ると転ぶぞ?ゆっくり帰るんだぞ?」

「そうよ。転んでケーキぐちゃぐちゃになっても知らないんだから」

コウとうさぎの言葉に真剣な顔で頷くと「ありがとうございます!」と元気に挨拶するコタロー
そのまま、走って行ってしまう。


「あっ!お、おぃ……たくっ…うれしいのはわかるけど、転ばないかな…」

「あはは、大丈夫じゃないのかなぁ?それよりも、ケーキ買おう。ね。」


一歩店内に入ると、真っ白いショーウィンドウにたくさんのケーキが並んでいる。
店員さんに話しかけるうさぎ。なにかメモを渡したかと思うと、店の奥から真っ白い箱が運ばれてくる。

「はい、どうぞ。黒川様のご予約分です。……持てるかな?あ、彼氏が一緒だから大丈夫だね。」


ネームプレートにカヤと書かれたお姉さんが、いたずらっぽくコウにウインクする。
ドキッとして顔がこわばるコウと対照的にデレデレと顔が崩れるうさぎ。

「そ、そんな。彼氏だなんて…へへへ」


ほほを両手で支えてニコニコするうさぎの隣でケーキを受け取るコウ。

「おぃ、行こうぜ?」

なんでそんなにデレデレするのかわからないコウは、頭の上にはてなマークが浮かんだままうさぎを急かす。
「えへへ」と笑いながらカヤさんにお金を渡してレシートを貰ううさぎも、お店を出ようとするコウの後ろについて行く。


「彼氏クンは鈍感だねぇ」

その様子を笑いながら見送る店員さんだった。


暗い道を歩くコウとうさぎ。
両手で大事そうにケーキを持つコウに、何度も「手伝おうか?」と話しかけるうさぎ。
そのたびに、コウの答えは「いいよ、俺が持つし」というものだった。


トボトボと歩くうさぎが、突然コウの左腕をつつく。

「ねぇ、なにか聞こえない?」

「んー?何か聞こえるかな…んっ?」

暗い夜道、青白い街灯だけが照らす路地で、うずくまっている何かが目の前に見える…
黄色と黒の縞々模様に、尻尾……こんなところにいるはずがないけど……

「コ、コウ……あ、あそこにいるの…」

「う、うさぎ、あれって…もしかして…」


──黒と黄色の縞々、尻尾、ウゥー、ウゥーという声……


「ト、トラ?」「バカッ、こんなところにいるわけないだろ!」

小声でこそこそと話す二人に気づいたのか、縞模様がゆっくりとこちらを向いて、しっぽがぴこぴことゆれる
コウの後ろに隠れて目を閉じるうさぎ。片手でうさぎを守るように広げるコウ……


「コウにいちゃぁぁぁん…」

「コ、コタッ!コタロー!?」「コタロー?」

うずくまって顔を涙でぐちゃぐちゃにしたコタローがそこにいた。
と、後ろから「ミー」と鳴いて猫が逃げる…その向こうには、見事につぶれたケーキの箱…

「あちゃぁ〜」

「あらら…」


何が起こったのか一目瞭然だった。
ケーキに喜んで走って帰ろうとして転んだコタロー……飽きれながらもしゃがみこんで頭を撫でるコウ。

「コタロー、だから言ったろ、走るなって。」

「……だって、っ!だってぇ……うぇぇ……」


心配そうに見つめるうさぎ…道の向こうには完璧に潰れたケーキの箱が転がっている。
さっきの猫の家族だろうか?ぺろぺろとクリームを舐めている。

──にゃーん、なぉーん

ニコニコとコタローの足に擦り寄る子猫たち。
でも、コタローの泣き声は止まらない。…子猫たちも心配そうだ…

「うぇっ……」

グズグズと涙を流して鼻をすするコタロー。
ため息をつきながら見守るコウと頭をなでるうさぎ。

「どうしようか…コレ」

「うーん、かわいそうだけど。ここまで完璧につぶれちゃってたらねぇ」


とりあえずコタローが泣き止むまで慰める二人。
あれこれ考えてもいい案は浮かばない…そのうち、コタローのしゃくりあげる声も、少しずつ小さくなっていった。

「コウにいちゃん…うさぎおねえちゃん…ごめんなさい」

「なに言ってるんだよ。俺たちに謝るよりも、お母さんとお父さんとお姉ちゃんに謝るんだぞ?」

「わたしたちも一緒に行ってあげるからね、ほら、行こう。」


ズボンの汚れをパンパンとはたきながらコタローを立たせる。
と、何か思いついたようにコウに向き直るうさぎ。

「コウ、ごめんね」

というと、手に持ったケーキの箱を取るうさぎ。
そして、そのままコタローの目の前に差し出す。


「コタローくん、もう走ったらダメだよ?あたしのケーキ上げるから、今日はゆっくり帰るんだよ?」

「…………えぇ?!」

驚くコタローとコウ。
ぺろっと舌を出してコウに笑いかけるうさぎ。

「いいのよ。あたしは、今日は。ケーキを買うよりも、いろいろ大事なことがあったから」


そう言うと、驚いた顔のコタローの手を取り、ケーキの箱を持たせる

「でも、今度は絶対、落としちゃだめよ?」

「コウお兄ちゃん、うさぎおねえちゃん、ありがとうございました!」


ペコンと頭を下げて走り去ろうとするコタロー
驚いて何か言いかけるうさぎだが、ソレよりも先にコウが叫ぶ

「コタロー!」

慌てて止めるコウ。「ダメだろ」と頭をコツンと軽く叩いてお仕置きする。
しっかりと歩いて帰るコタローを見送って、うさぎに振り返るコウ。


「いいのかよ?大事なケーキだったんだろ?」

「いいのっ!今日はコウとデートできたから」


頬を染めて呟くうさぎにドキドキするコウ。


「デ、デートって…その…あの…」

「もーっ、そういうところ鈍感なんだから」

コウの胸に飛び込んで顔をうずめるうさぎ。
慌てながらもうさぎの頭を撫でるコウ。

ふと、空を見上げると……白いふわふわのものが振ってきている…
「あっ」と小さく声を出したコウに「んっ?」と見上げるうさぎ。


「あぁー……雪だぁ…」

「そうだな。雪、降ってきちゃったな。」

しばらく抱き合ったまま雪を見上げていた二人だが、突然肩を叩かれてびっくりして振り返る。


「お二人さん。こんな雪の中、抱き合って暖かいのはわかるけど…ね」

背の高いお姉さんがにっこり笑ってこちらを見ていた。
…どこかで見たような…

「ひゃっ!……あっ、さっきの店員さん…」

驚いてうさぎもコウの胸から飛びのく。
さっきまでくっついて胸元が、風に当たって冷たい。


「あはは、ごめんね。お邪魔だったかしら?……あれ?さっき買っていったケーキは?」

ニコニコと問いかけるカヤさんに事情を説明するうさぎとコウ。
ふむふむと頷いていたカヤさんだが、うさぎの頭を撫でて話し始める。

「えらい!えらいね、うさぎちゃん。よーし、このカヤ姉さんがいいものをあげよう!」

と、紙袋から小ぶりのケーキが現れる。

「お店でね、あまっちゃったんだよ。あはは、これでよければどうぞ。二人のかわいい姿も見れたしね。」


ウインクするカヤさんに、さっきの姿を思い出して真っ赤になるうさぎとコウ。
ちょっと小さいけど…とってもおいしそうなケーキ…

「やったな、うさぎ!」

「おぉ!」

うさぎが伸ばした手にハイタッチするコウ。
パチンッといい音が雪の降る道路にこだまする。


「おーぃ、カヤー」

と、自転車に乗った男の人がこちらに手を振る。

「あ、来た来た。遅いんだから…あ、お二人さん。それじゃね。」

自転車の後ろに乗ってそのままゆっくりと走っていくカヤさん。
その様子を見ながら、自然と手をつなぐコウとうさぎ。

「お姉さんもあの人とパーティーかなぁ……あ、コウ、今日はあたしの家でパーティーしていこうね」

「?!おぉ!たくさん食べるぜ」


「イェーィ!メリークリスマス!」

声を合わせて大きく叫ぶと、ニコニコと笑いあってうさぎの家に走っていく二人だった。



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