バカゲー専科

† シャーロック・ホームズ †
伯爵令嬢誘拐事件

(ファミコンソフト  1986.12.11/トーワチキ発売)


『美食倶楽部バカゲー専科』 に掲載された (宣伝) レビューの完全版を一挙公開!

あのシャーロック・ホームズがキックの鬼と化して無法国家イギリスを駆け巡る!

さあ銃を取れ! 殺られる前に殺れ!!

 


なお、このゲームの画像や攻略情報は、
「ファミコン新世界」 さんの攻略ページを参考にするといいでしょう。








 思えばファミコン初期の版権物ゲームには、 とんでもないものが多かった。

 たとえば、 異次元空間に迷い込んだ子犬を探す 『タッチ』。 (野球はしません)

 家庭教師の出すクイズから逃げ回り、 雑多な事件を解決していく 『小公子セディ』



 今になってよく考えてみると、 『to Heart』 のキャラを使った同人格闘ゲームみたいなシロモノが堂々と市販されていたのだから、 恐ろしい話だ。

 そして、その中でも最右翼に位置するダーク&バイオレンスなバカゲーが、 この 『シャーロック・ホームズ 伯爵令嬢誘拐事件』 である。



 皆さんは、 ホームズと聞いて何を連想するだろうか?

 霧に包まれたミステリアスなロンドンの街、謎が謎を呼ぶ難事件、あざやかな名推理‥‥。

 そういった要素を全力のスタートダッシュで置き去りにしているのが、 このゲームなのだ。




 ゲームをスタートすると、 いきなり伯爵令嬢が仮面を付けたマントの男にさらわれるデモが始まる。 それはどちらかと言うと江戸川乱歩の世界ではないかと思うのだが。


 そしていきなり何の説明も無くロンドンの街なかに立ちすくんでいるホームズ。

まるでなにげない朝の散歩といった風情。 ‥‥いや、誘拐事件は?



 マニュアルによると、 アップル伯爵家のマーガレット嬢 (捨てキャラらしい適当なネーミングにふさわしく、 オープニング以降エンディングまで2度と登場しない) を誘拐したのは悪のシンジケート 『パパイヤ団』の首領、 Dr.コルディリアらしい。

 ちなみに、Drと言うが何の博士かは不明。

 そんな首領に率いられた、 これまた名前からして悪い (←頭が) 組織がなぜ伯爵令嬢をさらったのかと言うと、
どうやら名探偵ホームズへの挑戦ということらしい。


 犯人と動機、 プレイ前に解決。 推理は?


 別の言い方をすると、 マニュアルがなければこのへんのストーリーはゲーム中ではいっさいわからない。

 私も最初はマニュアルなしでこのソフトを購入したために苦労したものだが、 このようにオープニングストーリーをマニュアルのみに記載する方式が浸透していれば、 ROMカセット時代の中古市場はまた違った展開を見せていただろう。

 ついでにエンディングもマニュアルに載せるようにしていれば、 いちいち仕事のために延々とクソゲー・バカゲーをプレイする手間も省けたものを。



 なお、実はこのマニュアルが大いなる伏線であることが終盤で明らかになるのだが、 とりあえずまずはプレイ開始。


 この手のゲームのお約束として、 通行人に話を聞こうとして接触してみると

 ビシッ。 ‥‥ダメージを受けてライフが減った。

 よくわからないが、 ホームズはロンドンの全市民から命を狙われているらしい。


 しかし我らがホームズも負けてはいない。 このゲームでは、 敵を倒すのも民間人から情報を得るのも、 全て共通のアクションで表現される。 そのアクションとは、 「蹴る」

 実に単純明快である。‥‥と言うか市民を蹴るな。 欲を言わせてもらえば悪人も蹴るな。


  シャーロック・ホームズはそんなことしない。


 蹴られた相手は後方に吹っ飛んで消滅 (悪人・民間人を問わず し、 散り際に一言だけセリフを残す。

 それが有益な情報ならばいいのだが、 大半は 「アシタハ アシタノ カゼガフク」 だの 「カエルガ ナクカラ カーエロ」 だの 「ワタシハダレ? ココハドコ?」 だのと神経を逆なでするような迷言ばかりである。 この街は××××ばかりか!? (←不適切なツッコミにつき検閲削除)

 そして大通りで通行人を倒すと情報の代わりにお金が手に入るのだが、

  それはズバリ強盗では。





 ストーリー展開としては、 とにかく汽車で別の街に行けばいいらしい。 しかし切符が高すぎて買えない。

そもそも、 スタート時点で一銭も持っていないホームズにも大いに問題があると思う。


 仕方なく近くにあった公園に入ってみる。

 一人の男が現われたのでとりあえず蹴ってみようとして近づくと、

 その男はホームズが視界に入るやいなや、 発砲。

 もちろんホームズは生身の人間なので、 当たればほぼ即死。

死にたくないので逃げようとするが、 公園の中にある段差から落ちても即死。

 スリルとサスペンスあふれるデンジャラスな公園。 (推定死亡率80%)



 何度か死んでやり直しているうちに、 攻略法がつかめてくる。

 要するに飛んでくる銃弾をジャンプで飛び越え、キックを何発か叩きこんで蹴り殺してやればいいだけである。 実に簡単な話だ。

 ‥‥このあたりから、どうやらこの主人公は私の知っている名探偵とは同姓同名の別人かもしれないと思い始める。

 さて、無事に拳銃男を足技で倒すと、


キミハ イマノヨノナカニ マンゾクシテマスカ?



 なんなんだお前は。

 もうこんな街いやだ。

 と言うか、このゲームがいやだ。


 やはり睡魔と苛立ちとを抑えながらの深夜プレイは心身への負担が大きすぎるのだ。

そこでアニメ版 「名探偵ホームズ」 の名主題歌 「空からこぼれたStory」 をCDで聴き、心を落ち着けることにする。

 このゲームのBGMは聴かないほうが健康に良い。


 こうして一時間ばかりプレイしてみたが、サブタイトルの 「伯爵令嬢」 など名前も出てこない。

そろそろ最後の理性も失いかけたころ、一人の男に蹴りを入れて出てきたメッセージがこれ。


シャーロック ホームズ ッテ オモシロイ ゲーム ナンダッテ



 ‥‥速攻で電源を切って、寝た。










 翌日。

 今度はあまり余計なことを考えないようにし、 とりあえず通行人を蹴りまくって金を貯めることにした。 そして汽車で次の街へ。

 これで死の街ロンドンともおさらばだ。 いくら何でも次の街では、 きっともう少しマトモな展開が待っているに違いない。



 しかし辿り着いたバーミンガムの街では、 私の淡い期待を打ち砕くかのように、 いきなり警官が大通りで銃を四方に乱射していた。 ‥‥どうあってもその路線で行くつもりか。

 ここでももちろん、 一般市民はすべて敵。 まるで全国指名手配である。

 国家的規模で恨みを買っているとはスゴイ話だが、 考えてみるとこのホームズは連続強盗殺人犯 (決まり手はキック) なのだから当然か。

 よくTVドラマなどで 「世界中を敵に回したっていい」 というセリフがあるが、 このゲームはその 「世界中を敵に回した状況」 を疑似体験できる貴重なゲームである。

 外を歩いている通行人は、 敵としては弱いのでまだ助かるのだが、 民家の住人はなぜか異様に手強く、 0.3秒ほど接触しただけでライフが0になり死に至る。 まさに秒殺。 プロの手口だ。

 人間を一撃で仕留める蹴り技を持つホームズとは言え、さすがにキックだけで進むのは苦しくなってきた頃、 なんと武器屋を発見。

 そこに売られていたのは‥‥こういうイヤな予感だけは裏切ることなく忠実に、 ナイフと銃弾だったり。

 試しに銃弾を購入し、 大通りに出る。

 まさかとは思うが、 Bボタンで銃が撃てるようになってしまう (もちろんこの銃、主に一般市民を撃つために使われるのは言うまでもない)

 ‥‥そして、 白昼のバーミンガムに響き渡る銃声。



 この銃、 威力がある上に画面端まで消えずに飛んでいくため、 一発撃つとたいがい流れ弾に当たって誰か死ぬ。


 弾の値段は街によって違うが安いところで10発45ポンド、 そして市民を一人殺すごとに30ポンド手に入る。 つまりこのゲームでの人の命の値段は差し引きプラス25.5ポンドであり、 実にお買い得だ。

 この 『シャーロックホームズ 伯爵令嬢誘拐事件』 は、 推理アドベンチャーに見せかけたアクションゲームかと思いきや、 市民殺戮シューティングゲームだったのである。



 ‥‥だいたい、 伯爵令嬢誘拐事件がどうこう言う前に、 市街銃撃戦で何十人も死者が出ているのは気のせいだろうか。


 しかも犯人はホームズ。





 ともかくゲームを進めようと思い、 そばにあった民家に入る。

 中には、 紳士や貴婦人が数人たむろしていた。

 かなり気が咎めるが、 油断するとこちらも一瞬で殺られてしまうので、 やむなく射殺。



「モーイチド イイマス.ヤメテクダサイ」

「ゴショーデスカラ ミノガシテクダサイ」

「オネガイダカラ コロサナイデ」

「タスケテクレタラ ナンデモ イウコトヲキクワ」



 どうやら開発者の脳内では、 シャーロック・ホームズというキャラは超凶悪犯罪者という設定になっているようである。




 このゲームにおいて人命はヘリウムガスより軽い。

 最近の風潮で言えば、 世の中の凶悪事件の大半はすべてこのゲームのせいで片付きそうだがそうならないのはなぜだろうか。

 (答: 普通の人はプレイしないから)



 軽いのは敵 (市民だけど) の命ばかりではない。 ホームズに次々と殺害されていく民間人はもちろん、 そのホームズ自身も実にあっさりと、 かつ頻繁に、 死ぬ。


 特に民家の中では、 この暗黒面に染まりきったゲームシステムを堪能することができる。

 ジャンプの着地時に敵 (紳士や貴婦人) と重なって。 はしごを登っている最中、 横から接触されて死。 同じくはしごを登り切ろうとしたところで、 体が引っかかって逃げられず、死。 敵がブッ放す銃弾に当たって死。

 とても犯罪捜査どころの騒ぎではない。


 きわめつけは、 民家の中にある穴。 深さはホームズの身長ほどしかないのだが、 落ちると無条件で即死。

 そもそも、 なぜ家の中に穴があるのか。 強盗対策のトラップかと思ったが、 見ていると民間人たちもボトボトと落ちていく。 と言うのも、 彼らはたいていホームズに向かって何も考えずに直進してくるからなのだが、 そうして次々と穴に落ちて消えていく様子は、 レミングのようで不気味である。 またすぐに、 どこからともなくわいて出てくるけど。




 そんな危険いっぱいの民家の中で、 かろうじて即死をまぬがれた場合、 ホームズの体力を回復させる方法は二つある。



 一つ目は、 アイテムの薬を使うこと。

 しかしこの薬、 一度に一つしか持ち歩けないことになっているので注意が必要だ。

 すでに持っているときに買おうとすると、


スマナイガクスリハ 1ビンシカモテナインダヨ
マエノクスリヲ ステテ クレナイカ


などと聞かれる。 高いお金を出して買ったものを捨てられてはたまらないので、 イイエと答えると所持金が減り、


デハ イマカッタノヲ ステルンダナ


 ‥‥‥‥。

 ‥‥‥‥。

 ‥‥何か騙されてないかホームズ?



「あの方は何も盗んでいきませんでしたわ」

「いや、奴はとんでもないものを盗んでいきました。 あなたのお金です

 なんと気持ちのいい店員だろう。(ウソ)




 そしてもう一つの回復方法が、おなじみドクター・ワトソンだ。ロンドンにある彼の家を訪ねてみよう。


ヤア ホームズ ヨクブジ ニ カエッテコレタナ


 彼は最初からホームズが人民の敵であることを承知しているらしく、 いつでも無料で体力を全回復させてくれる。

 ただその代わり、 それ以外は部屋にこもりっきりで何の協力もしてくれない。 しかしまあ、 街にはただ入っただけで問答無用とばかりに金と体力を奪われる家すらあるのだから、 ワトソンには大いに感謝すべきだろう。 持つべきものは親友である。

 たとえ、 自分をネタにした小説で印税を稼ぎまくっていたとしても。










 たぶん、攻略情報の助けがなければ誰にもわからないとは思うが、基本的に捜査の大きな目的は、


・6つの重要アイテム(虫眼鏡、手帳、ピストル、ランプ、バイオリンパイプ)を手に入れる

悪の組織パパイヤ団7人の幹部を探し出し、倒す

・16個の隠しメッセージ全てを見つけ、手帳に記録する


 の3つ。

 先日の私のプレイで、 「何も持っていない状態で弾を買うとピストルが撃てるようになる」 というのはどうやらバグだったらしい。 実際はどこかの街の民家に隠されているピストルを手に入れないといけないのだ。

 もっとも、 アイテムを手に入れると言っても、 基本的に窃盗なのだが。 さすが強盗ホームズ。



 アイテムやメッセージはあちこちに隠されているので (ゴミ箱の中とか下水道のヒビ割れとか)、 ホームズはまず虫眼鏡を手に入れた上で、 それら全てをしらみ潰しに探していかなければならない。

 これら全てをそろえると、 パパイヤ団のボス、 コルディリアの城への道が開ける。

 最初のほうで書いたようにこのコルディリアが事件の黒幕なのだが、 それを推理する場面はまったくない。

 地道に足を使って物証を拾い集め、暴力で行く手をはばもうとする敵からこちらも力ずくで情報を聞き出し、 あげくの果てにそこに殴り込むというのは、 コナン・ドイルの創り出した探偵像からもっともかけ離れている気がする。



 だいたい、 パパイヤ団ってなんだ。




 釈然としない思いを今更ながらに噛み締めつつ、コルディリアとの最終決戦に挑む。

 ここに来るまでには、とある場所で2コンのABを同時に押すという、 むしろそんなこと思いつくほうがオカシイような謎をほぼノーヒントで攻略する必要があるが、 ちなみにマニュアルにはこう記されている。


 2コンは使いません。


 大嘘です。

 なるほど、 マニュアルからすでに誤誘導が仕掛けられていたとは盲点だ。

 ここで 「卑怯だ、そんなんわかるか」 「本物のホームズだって解けるわけない」 などと言ってしまっては名探偵失格なのだろう (言ってたのは私だけど)

 ではどうやって解くのかって? 名探偵らしく、開発者を蹴り倒して情報を得ろということに決まっている。



 そしていよいよ、 とうとう、 今度こそ、 Dr.コルディリアとの直接対決だ。

 黒幕らしく、 長ったらしい前口上で事件の真相とか組織の理想とか自分の過去のトラウマとかでも語り出してくれるのかと思っていたらそれもなく、 いきなりこちらに向かってトコトコと近づいてくるので、


 グサッ! (ナイフで)

 バキッ! (キックで)

 バキューン! (とどめにピストルで)



 事 件 解 決 。  ホームズ最高! 武力解決バンザイ!!






   もちろんコルディリアも恒例の遺言を残してくれる。


NEVER GIVE UP!
SEE YOU AGAIN NEXT GAME


 あー、 はいはい。



 例のマニュアルの裏表紙にも、 『待望の第2弾! シャーロック・ホームズ 「PART2」 企画中!』 などと、 発売前から何が待望かと思うような名言が踊っているが、 なぜバカゲーメーカーはこんなにも明日を夢見がちなのだろうか。

 ちなみにこの第2弾は、わりとマトモっぽいゲームとして数年後に登場した。

 ほんと、バカゲーメーカーって今も昔も‥‥。




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  (項目名をクリックすると本文に戻ります)



Dr.コルディリア

この首領、マニュアル内やゲーム中で「コルディリア」「コルディリヤ」「コルデリア」と表記が一定しない。偽名を使い分けるとはさすが悪の組織の首領、用心深い。知能は浅いけど。





「世界中を敵に回したっていい」

そう言やCMでもあったっけ。 うのたんはどうしますか?





一人殺すごとに30ポンド手に入る

なぜ 「手に入る」 かは深く考えないでおこう。





強盗

もちろんホームズのこと





金と体力を奪われる

プレイする気力もな。





バイオリン

ちなみに幹部の一人との戦闘でバイオリンを使うと相手が弱体化する。ハーメルン?





パイプ

使うとホームズが煙に包まれ、数秒間だけ敵が出現しなくなる。忍者?





虫眼鏡を手に入れた上で

名探偵なら虫眼鏡と手帳ぐらいは最初から持っていてくれよと思わなくもないが、英国紳士は手ブラが好きなのだろうか。
あと、キックも。




大嘘

さらに、 「GAME OVER」 時に2コンの右+A+B でコンティニュー、 ゲーム中STARTボタンでポーズをかけ、 2コンの上+A でパスワードが見れる。 嘘ばっか。
パスワードが隠しコマンドなのもどうかと思うが。